「あっ!これは膵臓に大きな腫瘍がありますね」医学生のとき、腎臓内科の担当教授の部屋で、1枚のCT画像を見ながら、私を含め六人の学生が一斉に口をそろえた。 「その通り、実はこれ私の画像なんだよ」 教授がうなずいた時、部屋全体が静まりかえった。 教授の部屋を後にしながら、私たちは思わず顔を見回し、誰からともなくため息が出た。同時にあまりにも冷静な教授の態度に驚いていた。 その後、教授は体調不良を押してしばらくは講義を続けていたが、それもできなくなり病床についた。みんなでお見舞いに行った際、「よく見ておきなさい!これが末期癌患者特有の顔で、所見でいうヒポクラテス顔貌ですよ」と言われ、全員が言葉を失った。 それからしばらくして教授は息を引き取った。 後日、追悼式では、学生のために生前に録音したメッセージが用意されていた。まるで教授がその場で講義をしているかのようで、私たちは泣いた。 教授が自分を教材にしてまでも伝えたかった思いは、「医師として冷静な判断をして、患者さんと真摯に向い合いなさい」という教えであった。このごろ、教授のことをしきりに思い出す。自分が医者として間違った判断をしていないかという道しるべのごとく。
伝えたかった思い